日本に韓流というカルチャーを根付かせたきっかけとなったドラマ『冬のソナタ』から13年。監督のユン・ソクホが初めて手がけた映画『心に吹く風』が公開される。監督生活30年を前に、日本映画で彼が描きたかった“道ならぬ恋”とは──。ユン・ソクホ監督に話を聞いた。
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〈北海道・美瑛の雄大な景色と、新緑の鮮やかな季節を背景に、映画『心に吹く風』では、23年ぶりに再会した男女の道ならぬ恋を描いている。
ユン・ソクホといえば、テレビドラマ『冬のソナタ』を監督したことから、日本では十数年ほど前の韓流ブームの火つけ役として有名だが、母国、韓国では1990年代より数々のドラマの制作に携わってきた大ベテラン。だが、意外にも今作が初の映画監督作品。そして、この作品ではあえて“不倫”というテーマを選んだという〉
今、多くの映画やドラマがリアルな不倫を描いています。ですが、エロティシズムを装った商業主義といえるほど、その多くが性的なものにフォーカスして作られています。
だからこそ体ではなく、心にフォーカスをした作品を描きたかった。リアリティーがないといわれればそうかもしれないけれど、ファンタジーでもなくリアルでもなく、その間を行ったり来たりする、その狭間を描くことが何より好きなんです。
〈劇中で主人公とヒロインが偶然再会するのは40代。だが、2人は高校時代の同級生で、『冬ソナ』同様に初恋の相手だ。これまでも手掛けた多くのドラマで純愛・初恋を描いてきたユン監督。だが、なぜそこまで初恋にこだわるのか〉
私自身の初恋なくして、ここまで初恋を語ることはできなかったと思います。私が高校生の頃の韓国では、男女共学の高校が少なかったこともあり、初恋というものに私自身、ファンタジーというか、幻想を抱いているのかもしれません。
ただ、誰の人生にも1度や2度、大きな恋の事件があると思うのです。私の場合、高校2年生の時の初恋が、その1つでした。
当時は、携帯電話もポケベルもない時代だったこともあり、デートの約束をして待ち合わせ場所で2時間も彼女を待っていたこともありました。でも、なぜかその時間は、まったく嫌ではなかった。むしろ、そこに集中しすぎて勉強もあまりできなかったくらい、彼女に夢中だったんです。
〈それは彼にとって、とても独特な経験で、今でも強烈に覚えている楽しい思い出の1つだ〉
2年間の恋でしたが、その恋が終わった数年後に会った友達に、「彼女のことはもう忘れられたのか」って聞かれるくらい、そこにどっぷり浸かっていたのです。
この恋が、その後の人生に大きな影響を与えることになるとは、まったく思っていませんでしたが、その時の経験から、偶然起こった感情は、どうすることもできないということも知りました。