うつ病、統合失調症、神経症性障害など、「現代病」といわれる精神疾患患者が激増している。
厚労省が3年ごとにまとめる『患者調査』によると、2014年の精神疾患患者は392万人。過去最高の数字である。前回調査時(2011年)は320万人。3年間で70万人増えた。
ちなみに1999年の調査では204万人。過去15年で患者数はほぼ倍になっている。
『「正義」がゆがめられる時代』(NHK出版新書)等の著書で現代人の精神と肉体の異変を分析してきた精神科医の片田珠美氏が語る。
「この数字の背景には、社会と家族、両方の要因があります。ブラック企業の問題に代表されるように、景気の低迷による不安定な雇用と過酷な労働環境で、会社員の心身がどんどん追い詰められています。
そのうえ、若者の『自己愛』の肥大化が重なった。少子化の影響で、親から過度な期待をかけられた子供たちは、親から投影された『自己愛』を背負って育ちます。結果、自分の能力を過大評価してしまう。でも、人生に挫折はつきもの。東大に入っても就職で躓くこともあれば、一流企業に入って仕事で失敗することもある。そのときに彼らは立ち直れず、出社拒否やうつ病になりやすいのです」
自己愛を守るため、彼らはえてして他責的になる。失敗は自分の能力のせいではなく、他人のせいなのだ、と。心を病み、他者を攻撃し、泥沼で藻掻きながらも救いの手を求めている。
精神疾患患者の激増は同時に、家族の人生を大きく変えていた。
2008年、和歌山県海南市で、統合失調症の娘と母親の無理心中事件が起きた。症状が改善せず、幻覚や妄言を繰り返す娘を不憫に思い、就寝中に首を絞めて殺した。母親は直後に自分も手首を切ったが、死にきれなかった。
翌年には徳島県で、長年精神疾患を患う息子を父親が殺害する事件が起きている。家庭内暴力に悩んだ末の犯行だった。この手の事件は決して少なくない。
「介護問題、とりわけ介護疲れによる殺人はメディアでもクローズアップされますが、精神疾患患者の家族にまつわる事件は取り上げられることが少ない。“デリケートな題材だから”と蓋をしてきたからです。
でも、400万人弱という患者数はもはや社会問題です。患者や家族が何に悩み、どんな解決策が求められているのか、一人一人が考えるべき時期に来ています」(ある医療ジャーナリスト)
※女性セブン2017年3月23日号