【書評】『せいきの大問題 新股間若衆』/木下直之著/新潮社/本体1800円+税
本書は、著者が5年前に刊行した『股間若衆 男の裸は芸術か』(新潮社)の続編。
〈股間若衆〉とは著者の造語で、彫刻作品における男性裸体像を指すが、それらにおいては股間が小さく潰されていたり、葉っぱなどで隠されていたりする。著者は前著で、そのような男の股間の〈曖昧模っ糊り〉とした表現は、明治時代に国家の弾圧をかわすために彫刻家が編み出した独特の工夫であり、今に至るまでそれが受け継がれていることを明らかにした。
続編である本書では、股間若衆を巡る話題に加え、女性の裸体画にも猥褻と取られないための工夫が凝らされてきたことを取り上げる。それは日本近代絵画の巨匠・黒田清輝が貫いた「油絵原則」なるもの。「両股をぴたりと閉じ、陰毛を描きさえしなければ、裸体であっても普通の油絵と何ら変わらない」とする考え方だ。
そのように描かれた裸体像は確かに性器の存在を感じさせない。だが、果たしてそれで人間の真実を描くことができるのか? 著者は、陰毛も性器も含め被爆者の悲惨な姿を描いた『原爆の図 第一部 幽霊』(丸木位里・俊作)という作品を取り上げ、問題提起する。
本書は他に「わいせつな電磁的記録を頒布した」とされたろくでなし子氏の裁判、美術館に展示された性器を露出した男性ヌード写真が警察から撤去命令を受けた一件なども取り上げ、〈なぜ股間は隠さなければならないのか〉を考察する。
テーマは深淵、著者の姿勢は大真面目だが、各地の股間若衆を集めた「股間風土記」、神社に奉納された男根を紹介した「性地巡礼」などでは著者のユーモアが全開となる。楽しく読める怪作だ。
※SAPIO2017年7月号