「歴史に学べ」という言葉がある。現代の世の中をとらえるとき、よく使われる言葉だが、過去の歴史をさらに古い過去と比較し、学ぶこともできる。作家・井沢元彦氏による週刊ポストの連載「逆説の日本史」より、江戸時代の日本にも、植民地支配を受けたかもしれない過去があったことから、現代の民主主義の可能性について考察する。
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ジャッキー・チェンはなぜジャッキー・チェンなのに、安倍晋三はなぜシンゾー・アベではないのか?
まず大スターのジャッキー・チェンのことはよくご存じだろう。彼はもともと中国人で陳港生(チャンコンサン)が本名だが、Jackieという英語名は単なる芸名では無い。彼はイギリス統治下の香港で生まれた「香港人」だから英語名を持っているのだ。では、なぜ香港はイギリスの植民地だったのかと言えば、1841年に清国がイギリスとのアヘン戦争に敗れ、翌年の南京条約で香港を奪われたからである。
結果的にはその後の外交交渉で香港は1997年に中国に返還されたが、この時点では租借つまり期限後の返還では無く永久割譲であった。しかも、イギリスはその後アロー戦争を清国に仕掛け香港島の対岸の九龍半島まで奪い取った。1860年、日本では大老井伊直弼が桜田門外で暗殺された年である。