「もしも今“激安”を売り文句にするバスツアーがあったら、逆にそれは危ないサインかもしれません」と話すのは、旅行ジャーナリストの村田和子さんだ。2012年の「関越自動車道高速バス居眠り運転事故」や2016年の「軽井沢スキーバス転落事故」以降、安全意識が大きく変わったからだ。
運転手1人で走行できる距離や時間の上限が決められたり、旅行会社がバス運行会社に依頼する運賃が、安すぎないようルールができるなど、安全対策を踏まえた法改正も進んだ。それが、バス旅のトレンドにも影響を与えている。
「安全対策にはコストがかかるので、従来の格安ツアーは成り立たなくなりました。代わりに、内装がゴージャスな新型車体やツアーコースに工夫を凝らしたオリジナルのバス旅が増えています。特にシニア層にも受け入れられる乗り心地やサービスにこだわって、どんどん高級志向になっています」(村田さん)
座ったまま目的地に運んでくれるため、歩く距離も最低限で済むのもシニア層に受ける理由でもある。さらに、旅行ジャーナリスト渡邊輝乃さんはこう加える。
「これまでは、単なる移動手段でしたが、“乗ること”自体が目的になってきています」
価格が高くても、内容の充実度で差別化を図ろうとしているのだ。また、旅行者1人1人の趣味に対応できるようにと、ツアーの多様化も最近の傾向だ。
とにかく安ければよかったバス旅が、「高い金額を払ってでも乗りたい!」に変化した今、これまでにない新たな楽しみが広がっているといえる。まず、今もっともホットなのが、高速バス。車中泊がホテル並みの空間となった!
そのうちの一つが「ドリームスリーパーII」だ。東京-大阪間を関東バスと両備バスが共同運行している定期路線の夜行高速バス。完全個室で、“疲れない車中泊”を実現しているという。完成まで約2年、1台当たりのコストは約1億円かかっており、1室1畳弱の広さにリクライニングシートや空調、空気清浄機といった快適装備が備わっている。片道約2万円と夜行バスにしてはかなり高いが、「他人の視線を気にせずリラックスでき、ホテル代わりに使える」と人気が高い。
車内は全11室。各室のドアは鍵のないスライド式。階段下には温水洗浄機能つきのトイレも。最後部にあるパウダールームには、LED照明とシートつき。
アロマの香り漂う車内は土足禁止で、スリッパやミネラルウオーターといったアメニティーも配られる。NASAの理論に基づいて考案された疲れにくいゼログラビティ(無重力)姿勢がとれる座席の周りには、USBポートやWi-Fi、照明、快眠音楽4チャンネル、空気清浄機も完備。
「バス旅行=安い」といったイメージではくくれない状況になっている。
※女性セブン2017年6月29日・7月6日号