京都の熱い夏の季節の風物詩は、7月1日から1カ月に渡って行われる八坂神社の祭礼・祇園祭だ。最大の見ものは、長刀鉾(なぎなたほこ)を先頭に23基の山鉾(やまほこ)が街を練り歩く17日の山鉾巡行。古都を代表する繁華街・四条河原町(しじょうかわらまち)もそのコースになっているが、『高田酒店』は、その四条通(しじょうどおり)と南北に交差する御幸町通(ごこうまちどおり)を上がったすぐ西側にある。
6代目主人の高田昌広さん(54歳)の言葉を借りれば「当日はこちらから見に行かなくても、山鉾の方から寄って来てくれるイメージがあります」というほどの場所。大きな祭りがない季節でも、店からは街の賑わいがいつもすぐそこに感じられる。
大正時代に小さな造り酒屋から始まったというこの店の歴史は、すでに100年を超えた。が、老舗酒屋的店構えを押し出しているわけではなく、表に酒の自販機が2~3台さりげなく置いてあるだけで、看板もなく見逃してしまう可能性さえある。よく見れば、自販機に向かって右側が酒屋の、左側が角打ちの入口になっている。
「間口の狭いのは、いかにも京都的ですけど、中に入れば奥行きもあってゆったりと飲める。これがまた京都的なんですよ。角打ちは亡父が始めたもので、30年ぐらいになると思います。皆さんに使ってもらっているこのカウンターを含め、こんなスペースを作って、遺してくれました」(高田さん)
古都一番の繁華街に近いこともあり、店の中は、早い時間から賑やかなのはいつもの事。この周辺に職場のあるサラリーマンを中心に、陽気な笑顔と会話が入口にも奥にも溢れている。
「酔っぱらいが集まって陽気に騒いでいるっていうのとは、ちょっと違うんですよ。その中に品があり落ち着きもある。京都らしい“はんなり”した雰囲気というのでしょうか。例えば、ここで記念写真を撮るよとなれば、酔っぱらった姿のままでは写らないようにする。その気持ち、心構えが京都人の品の良さ、はんなりなんです。わかってもらえますか」(60代、保険業)