デビュー以来無傷の公式戦連勝街道を歩み続け、6月26日、ついに歴代単独1位となる29連勝を成し遂げた藤井聡太四段。彼が「14歳とは思えない」と形容される理由は、強さや謙虚さだけでなく、“字のウマさ”にもある。「大志」と揮毫した扇子が、販売開始わずか30分ほどで完売したことが話題となったが、男子中学生らしからぬバランスの取れた筆致が目を引く。あるプロ棋士が話す。
「棋士という仕事は、自分の字について意識する機会が多い。ファンの方に色紙や扇子への毛筆でのサインを求められるからです。将棋連盟には『書道部』という月1で毛筆の練習をするサークル活動まである」
棋士たちの間で“字のウマさ”が気にされるようになったきっかけは、羽生善治三冠の登場だという。
「羽生さんのグッズが最初に販売されたとき、扇子を見たファンから“個性的な字”という評価が集まった。要は字があまり上手ではなかったのです……。何をやっても目立つ羽生さんだけに、“影響力”は大きく、それ以降の若手棋士は字を気にする人が増えた」(同前)
たしかに羽生三冠の文字を見ると、バランスの取れた文字とは言い難く、藤井四段より明らかに“個性的”だ。それを見て、藤井四段も練習を重ねたのだろうか。『棋士とAIはどう戦ってきたか』などの著書があるルポライター・松本博文氏はこういう。
「人気の棋士になるほど揮毫する機会は増えますから、自分の書く文字を気にする傾向が強くなる。とくに名人や竜王のタイトルを取れば、日々の仕事として、アマチュア有段者に発行する段位免状に毛筆で署名を入れなければなりません。免状をもらう側にとっては一生の記念品ですから、下手な字ではガッカリされてしまう。そこで、渡辺明竜王は女流棋士でもある書道師範・石橋幸緒さんに字を習っていました」
※週刊ポスト2017年7月7日号