文部科学省の前川喜平・文部科学省前事務次官(62才)による加計問題に関する告発劇。一連の騒動で見えてくるのは、官僚と政治家のゆがんだ関係である。
戦後の高度成長期を支えた一端は、まぎれもなく日本の優秀な官僚たちだった。しかしバブル期、リクルート事件や厚労省事務次官の収賄事件、旧大蔵省のノーパンしゃぶしゃぶ接待など、権力を持ちすぎた官僚の劣化が際立ち、「政治主導」が唱えられた。「官僚任せにせず、政治家が物事を決める」という意思表示である。
以降、元首相の橋本龍太郎、小泉純一郎らが政治主導の流れを作り、官僚の既得権益に切り込んでいった。
「2009年に民主党政権が誕生する直前、小沢一郎さんは“脱官僚”を掲げて、霞が関が握る国の一般会計と特別会計の合計200兆円をすべて組み替えると提言しました。これは予算と人事を奪って霞が関をつぶす究極の政治主導の試みです。当時は全省庁が小沢さんの敵に回り、彼のもくろみは幻となりましたが、政治家の中にはそれほど強行な考えを持った人間もいるのです」(全国紙記者)
民主党政権の崩壊後に誕生した安倍政権は、政治主導を実現するため、審議官級以上の官僚およそ600人の人事を一元管理する内閣人事局を設置。菅義偉官房長官が実質的に人事権を握り、官僚を支配する体制となった。
政治主導の掛け声のもと、省庁が許認可権を持つ規制を緩和する動きも盛んになった。今回の問題も文科省の持つ大学設置の許認可権に、官邸の意向を受けた内閣府が迫ったという側面がある。元文科省官僚で、前川氏をよく知る寺脇研氏(京都造形芸術大学教授)はこう語る。
「政治主導の根底にあるのは“官僚は図に乗るな”という上から目線の思想です。確かに官僚主導の行きすぎは問題ですが、内閣府が異様に強くなり、“お前たちは黙っていろ”という乱暴なやり方がまかり通るのは、おかしいです」
この状況に異を唱えたのが、他ならぬ前川氏だったともいえる。前川氏は2005年に小泉内閣が公立小中学校の教職員給与の国負担分を2分の1から3分の1に引き下げた際、「奇兵隊、前へ!」と題したブログを公開し、政府の方針に抵抗したことがある。
「官邸と闘いつつ、かつての部下も守る。そんなことができるのは前川さんだけだと思います」(寺脇氏)
※女性セブン2017年7月13日号