【書評】『東京古道探訪』/荻窪圭著/青幻舎/本体1600円+税
幕府が開かれる前の江戸という土地のイメージは湧きにくいが、もちろん律令制の国があって人が住んでいた。ということは道が存在していた。本書は江戸時代より前から使われていたと思われる街道に焦点を当てたガイドブックだ。
著者によれば、飛鳥時代に朝廷は全国の国ごとに国府(今でいう県庁所在地)を置き、官吏などが都と国府を往復するための道を整備した。そのひとつが古代東海道で、都のある飛鳥から東に向かうので「東海道」と名付けられた(新しい東海道と区別するためにここでは「古代東海道」と表記)。
その古代東海道は、江戸では東海道より内陸部を通り(東海道は当時、海沿いの道だった)、品川から江戸城のあたりを通り、浅草近辺で隅田川を渡り、下総国に抜けたと推定されるという。本書が取り上げるのはそのうち、高輪から古川の手前、洗足池から大井、浅草から鐘ヶ淵のあたりまで、四ツ木から立石まで、そして府中周辺という5か所(ちなみに、武蔵国の国府が置かれていたので府中と名付けられた)。他に鎌倉時代に各地から鎌倉へとつながっていたさまざまな道を総称して「鎌倉街道」と呼んでいたが、そのルートも5つ取り上げる。
こうした古代の街道はすべてが確定しているわけではなく、多くは推定にすぎない。だが、ルート上には平安時代の更級日記に出てくる竹芝寺跡(亀塚公園)、鎌倉時代に生きた日蓮上人が足を洗ったという洗足池、奈良から平安に遡ると見られる大井三ツ又の地蔵尊、創建628年、東京最古の寺である浅草寺など、古い史跡や伝説が数多く残っている。遥かな時代を生きた人々への想像をかき立ててくれる本である。
※SAPIO2017年7月号