仕事は毎朝5時に始まり、夜9時過ぎまで接客、掃除、配膳、スタッフ指導などで旅館内を歩き回る──。
ある老舗旅館の77歳の女将の万歩計の数値は、毎日1万歩を大きく超えていた。同年代と比べて、明らかに“健康的”な生活のはずだった。ところが、ある日職場で転んだ拍子に足を骨折してしまう。病院では、骨粗鬆症と診断された。
「1日1万歩で健康」というウォーキング推奨のキャッチコピーを地で行っていたのに、一体何が間違っていたのか。
「実は“歩けば歩くほど健康になる”という常識は大間違いなのです。万歩計に表示された歩数だけを見て、“1万歩以上だから大丈夫だ”などと安心していると、かえって健康を損なうリスクが生まれます」
そう語るのは、東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利氏(運動科学研究室長)だ。
青柳氏は2000年から群馬・中之条町に住む65歳以上の住民を対象にした大規模追跡調査を行ない、身体活動と病気リスクなどの関係を調べる研究を続けてきた。冒頭の女将も、その「中之条研究」の対象者のひとりだった。