本書には世界各地のシンデレラ譚が紹介されていて、そのどれもがじつに面白い。困難な局面に遭遇するものの、最後に幸福をつかむという物語の構造は類似しているが、伝播した土地の文化や倫理観、社会規範を取り込んで変形していったことがよくわかる。
たとえば日本各地の民話にもシンデレラ譚が伝播したと考えられるものがある。しかし大陸から一時期伝わった靴文化はすたれたので、日本のシンデレラ譚には靴のモチーフが欠落したのだった。
人間は、いつの時代も、どこの土地でも苦しい現実に直面し、それでもなお夢や理想を生きる糧として生きてきた。シンデレラ譚が愛されてきた理由である。
※週刊ポスト2017年7月14日号