連勝記録が途切れても、メディアの“藤井フィーバー”は止まらない。「僥倖」「望外」など豊富な語彙力を誇るこの14歳のプロ棋士の「強さの正体」はどのようなものか。将棋ライター・松本博文氏がレポートする。
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藤井聡太四段は小学校の卒業文集に、「ぼくと将棋」と題して、将棋を覚えた5歳の時のことを回想している。ルールを覚えて、最初は祖父母と指していた少年は、やがて近所の将棋教室を訪れる。
〈矢倉の駒組を初めて見たのはその時だ。重厚で整った陣形を見て、自分の将棋とのあまりのちがいに驚いた〉
「重厚」という言葉は、日常生活では、使われないだろう。将棋界では腰の入った着実な攻めをポジティブに評価する際などに、よく使われる。ちなみに、矢倉を得意とする、重厚な攻め将棋の代表格といえば、加藤一二三九段である。藤井が更新する以前に史上最年少のプロ入り記録を有していた加藤とは、引退の少し前、奇しくも藤井のデビュー戦で対局している。
藤井の前に中学生でプロになったのは加藤の他に谷川浩司九段、羽生善治三冠、渡辺明竜王の3人だけ。早熟の天才たちは、いずれも後に超一流となった。
15歳でデビューした羽生は19歳にして初タイトルの竜王を獲得。25歳で史上初の七冠同時制覇を成し遂げた。この世界に限っては、大器晩成の例は非常に稀だ。苦労して20代半ばで四段になった棋士がタイトルを獲得したことは、ただの一度もない。才能を示す指標は、無情にして簡明だ。