歴史上の偉人や英雄には、広く伝えられる伝説が必ず存在するものだが、中には記録に存在しないものも含まれているようだ。
本能寺で明智光秀に追いつめられた織田信長が、炎の中で「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり」と『敦盛』を舞う。信長を扱った映像作品における定番のクライマックスシーンだ。ところが、このシーンは創作である可能性があるという。歴史研究家の井手窪剛氏がいう。
「しかし、実際にその姿を見たという記録はありません。本能寺の変でいえば、信長が自ら果敢に応戦し、森蘭丸も槍を持って奮戦したという話も、定かではない。
本能寺に真っ先に突入した武士の書き残した『本城惣右衛門覚書』によれば、門番を切り倒して本能寺に入った後、誰も信長を見つけられないうちに奥で火の手が上がり、結局、信長の死体は見つからなかったとあります」
真相は闇、いや炎の中だ。
※週刊ポスト2017年7月21・28日号