【著者に訊け】中村理聖氏/『若葉の宿』/集英社/1600円+税
福井出身で東京の大学に学び、京都の出版社に就職。中村理聖氏は7年半の古都暮らしを、「京都に住ませてもらっている」と表現する。
「地元のあるおじいさんが教えてくれたんです。特に私はよそ者なので、『京都はそれくらいの心持ちで住むとちょうどよろしい』って。今はその京都を、書かせてもらってもいますけど」
小説すばる新人賞受賞から3年。受賞第一作『若葉の宿』は、手作りの朝食ともてなしが自慢の町家旅館〈山吹屋〉の〈夏目若葉〉の心の揺れを丁寧に描いた青春小説だ。父を知らず、就職もままならなかった若葉は、祖父の紹介で京随一の老舗旅館〈紺田屋〉で仲居を始めたものの、いつも失敗ばかり。山吹屋では祖父母を手伝う一方、自分を捨てた母〈亜希子〉に未練を残し、将来の夢も特にない、気弱な21歳だ。
そんな彼女のじれったい成長を見守る間にも、古都には四季が移ろい、様々な決め事が粛々と守られていく。人と町、伝統と革新のコントラストも鮮やかな、京都ならではの物語である。