最新鋭の装備を誇る現代の飛行機も、乗客の些細な行動ひとつで大きな影響を受ける。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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かつて中国で空の移動をすれば、遅延は常態であった。空港に到着しチェックインを済ませても待てど暮らせど登場の案内はなく、挙句の果てに欠航になるなんてトラブルは当たり前であった。
経済発展の進んだ現在の中国では、いま、そうしたトラブルは目に見えて減少したといえるだろう。なかでも主要都市間を発着する航空便には安定感が備わりつつある。
だが、そんななか久しぶりに中国の奥深さを思わせる航空トラブルがメディアを賑わせたのだった。
6月27日に予定していた12時40分の浦東(上海)発、広州行きの便が、乗客による航空機の安全運航を脅かす行為により出発が大幅に遅れてしまったのである。安全運航を阻害する行為などと聞けば、真っ先にテロが想起されるが、今回の問題はそうではなかった。北京のメディア関係者が語る。
「事件を引き起こしたのは邱さんという80歳の老婆でした。彼女が飛行機に乗り込む際にエンジン目がけて持っていた硬貨を投げたのです。これは飛行機が安全に飛ぶための彼女なりの儀式だったのですが、航空会社にとっては迷惑な行為でした。とくに投げた9枚の硬貨のうち1枚がエンジンの中に入ってしまい、それを取り出すまで出発できなくなってしまったのですから」
中国にはいまだ民間宗教の影響が強く、科学よりも迷信や言い伝えを重んじる人々が少なくない。
「人々の所得が上がり、これまで空の移動とは無縁であった人々も飛行機が身近になる時代となり、こうした予期せぬトラブルは今後も起きるかもしれませんね」(同前)
ほんの1年ほど前には、自分の座る椅子を自ら持ち込もうとしてトラブルになったケースもあった。やはり中国は広いのだろう。