年を重ねるにつれて、家族や親戚、友達ががんになったという話を聞く機会は増えていく。2人に1人が罹患する時代といわれて久しい。埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授で、がん患者と家族の精神的なケアを専門とする精神腫瘍科医の大西秀樹さんが、その日が来てしまった時のために、がんについて知っておくべきことについて解説する。
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がんを告知されると、頭の中が真っ白で何も考えられなくなります。落ち込んで、食欲がなくなったり、眠れなくなったりするなど、1週間ほど日常生活に支障をきたします。その期間が過ぎると、だんだん冷静さを取り戻してきます。
すると、自分は今後どうなるのか、家族や仕事などの不安がどっと押し寄せます。このときによく受ける相談が、仕事を辞めるべきかどうかです。私は、体が動くかたは仕事を続けるようにアドバイスをしています。なぜなら、一度、退職すると次の仕事に再就職しにくいからです。治療が一区切りついてから、再就職をしたくても難しいんです。
がん治療は医療費がかかりますし、就労しているからこそ受けられる制度もあります。傷病手当金のほか、勤め先によって制度は変わりますので、確認するとよいでしょう。
また、医療に関するお金の問題は、病院のソーシャルワーカーに相談することをおすすめします。全国のがん診療連携拠点病院に必ず設置されている「がん相談支援センター」は、通院している患者以外でも無料で相談できるので、こちらも利用してください。
上司や同僚にがんと言いたくない、迷惑がかかるからという理由で仕事を辞めてしまうかたがいます。それはとても残念です。職場側が病気を理解して、支え合っていただきたいですね。
仕事を続ける利点は、他にも“生活を変えない”ことにあります。がん中心の生活になってしまうと、滅入ってしまいます。今までの生活にがんが加わった、がんも生活の一部だととらえることが大事なのです。がんの状態によっては、長期間共存することになります。少しでも生活を変えないことが大事です。
その上で、大事なのは、家族や周囲のサポートです。大事なのは、本人の話を聞くことと、傍にいることだといわれています。精神的なケアは、家族の大切な役割です。
サポートをする側の注意点としては、「頑張って」と励ますのは基本的にNGです。本人は既に精一杯頑張っていますから。
※女性セブン2017年7月27日号