みんなで手すりにつかまろう──7月21日から全国の主要駅や空港、商業施設などで始まったこのキャンペーンは、エスカレーター利用者の事故防止や混雑緩和を目指し、かれこれ2009年から続けられている啓蒙活動だ。最終的な狙いは「歩行禁止」の周知徹底である。
「歩く人のためにエスカレーターは片側を空けて乗るもの」という“暗黙のルール”が出来たのは、1970年代からだといわれている。関西の電鉄会社の中には、「お急ぎの方のために左側(東京は右)をお空けください」とわざわざ放送を流していたところもあったほどで、それがいつの間にか全国に広まり、慣習化された。
今でも片側空けは常識、マナーだと思っている人は多いだろう。数年前、新聞の投稿欄にもこんな声が寄せられた。
〈エスカレーターを歩く慣習を禁止したら、ラッシュ時にはホームなどに人があふれるだろう。乗り継ぎ時に、ちょっとした時間差で目的の列車に乗れないこともある〉
〈エスカレーターは、階段を動かすことで目的階に速く移動するという発想で開発されたもので、立っている必要はないと思う〉
だが、近年はエスカレーターを駆け上がったり駆け下りたりする人の体や荷物が立っている人に激突し、転倒するなどの事故が年間1000件以上起きている。そのため、交通機関や商業施設は片側歩行を認めておらず、禁止を呼び掛ける施設も増えている。
「われわれはずっと注意喚起してきましたが、エスカレーターは歩くことを前提として設計されたものではありません」と力説するのは、昇降機メーカーの業界団体、日本エレベーター協会の担当者だ。
「標準的なエスカレーターは階段と違って横幅が約1mと狭いうえに、ステップの高さは20cm程度と階段よりも高く、乗った時と中央付近、降りる時の高さもそれぞれ違います。また、足元が深くなっているので直角ではありませんし、そんな中を普通の階段を上り下りするイメージで歩くと、立っている人にぶつかったり躓いたりする可能性が高まります」