昨年末に日本陸連のマラソン強化・戦略プロジェクトのリーダーに就任した、長距離界のレジェンド・瀬古利彦氏(61)。1980年代の日本マラソンは世界をリードしていたが、1990年代から低迷していく。マラソンの志す若手選手が少なくなった今の日本マラソン界に瀬古氏が伝えたいことを、同氏を長く取材してきたルポライターの高川武将氏が聞いた。
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2013年に東京五輪招致が決まってから、マラソンを志す若手が出てきてはいる。4月のボストンで3位になった大迫傑(おおさか・すぐる、ナイキ・オレゴン・プロジェクト)ら、まだ記録は2時間10分前後だが楽しみな選手は少なからずいる。一方で、「山の神」と呼ばれた柏原竜二をはじめ、箱根駅伝で活躍し将来を嘱望されていた選手が20代で次々と引退している。彼らのレベルと東京五輪が控えていることを思えば「異常事態」だ。その現状について尋ねると、瀬古は「うーん」と言ってしばし沈黙した。
「ちょっと考えられないよなぁ。何を目標にしてやってきたんだろう。箱根を走れればそれでいいのか……。モチベーションというのは、負けたくないということでしょう。僕は宗(茂、猛兄弟)さんに勝ちたい、だったら宗さん以上の練習をやろうと。自分の負ける姿を見たくないからさ。練習をやったらいい結果が出て、さらにやる気に繋がった。努力すればマラソンは必ずいい結果が出ると思うのに、何でやらないんだろう……」
顔を上げると、毅然と言い放った。