薬と寿命の関係を示すデータが次々明らかになっている。病気になったので薬を飲み、症状が治まって安心し、再発が怖いから飲み続けているその薬と引き替えに、寿命が縮んでしまっているとしたらどうだろう。たとえば、糖尿病治療薬の一種である「スルホニル尿素薬」(SU剤)の服用にも注意が必要とされる。
2008年に米国とカナダで行なわれた大規模臨床試験では、1万人以上の糖尿病患者について、SU剤などを大量に用いて大幅にヘモグロビンの数値を示すHbA1cを下げようとした「治療強化群」と「通常治療群」に分けて追跡調査した。
試験開始から3年半後、「通常治療群」の死亡者は203人だったのに対して、血糖値を厳しくコントロールした「治療強化群」の死亡者は257人と約27%多かった。北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師の話。
「高齢者は老化に伴って腎臓や肝臓の代謝機能が衰えており、薬の成分が長く体に残りやすいために、血糖値が下がりすぎて『低血糖』を起こしやすい。低血糖は自律神経を緊張させて、手の震えや寝汗、強い空腹感を生じさせ、重症になると意識障害が発生したり、脳にダメージを与えたりすることで寿命が縮まります」
高齢者のSU剤服用には注意が必要という指摘であるが、簡単に“やめる”というわけにいかない事情もある。
「糖尿病患者は血糖コントロールを一生行なうことが必要で、しかも他剤への切り替えが難しいケースが多い。SU剤が体質に合っており、服用を続ける場合は、担当医と相談して適正なリスク管理を心がけましょう」(石原医師)
※週刊ポスト2017年8月4日号