病院で何種類もの薬を処方されても、「これも病気を治すためだ」と日々、忘れずに飲み続けている人は多い。だが、その努力は“逆効果”になってしまうかもしれない。オランダ・ラドバウド大のジェローン・フォックス教授が2016年、心房細動の薬を常用している患者約1万8000人を対象に行なった調査では、約76%が5剤以上の薬を服用していた。
そのうえでフォックス教授が注目したのは「薬の処方数と健康の関係」だ。この調査では、心室細動の薬以外、服用している薬剤の種類が多いほど死亡率が増加し、薬を合計で6剤(6種類)以上服用している患者は、5剤以下の患者よりも、脳卒中または全身性塞栓症の発生率が高くなっていた。
日本にも同様の報告がある。東京大学医学部付属病院の小島太郎医師らが1995~2010年に65歳以上の高齢者2412人のデータを元に、投与薬剤数と有害事象(検査値の悪化など好ましくない症状のこと)の発生率の関係を調べたところ、「1~3剤服用」における有害事象の発生率は6.5%だったが、「6~7剤服用」では13.1%と倍増し、「10剤以上服用」では13.9%まで上昇した。
たかせクリニック理事長の高瀬義昌医師は、「5剤か6剤か」の間に、患者の健康リスクを分けるボーダーラインがあると指摘する。
◆「薬」が「毒」になる
「東大病院が2012年に行なった別の調査では、高齢者が薬を1日5剤以上服用すると、ふらつきやめまいを起こし、転倒の発生頻度が増加しました。転倒が増える5剤、そして有害事象が増えるのが6剤であることを考慮すれば、薬の服用は1日5剤以下には抑えるべきです」