【著者に訊け】中澤日菜子氏/『ニュータウンクロニクル』/光文社/1600円+税
自身、ニュータウン育ちであることに、特に郷愁や思い入れはなかったという。
「むしろなぜ私には故郷がないんだろうって、何もかもが清潔で正しくて日向ばかりの町に、ネガティブな感情すら抱いていました」
中澤日菜子氏の最新作、『ニュータウンクロニクル』は、1970年代初頭に造成された〈若葉ニュータウン〉を舞台にした、文字通りの年代記。一章「わが丘 1971」から終章「新しい町 2021」まで、高度成長やバブル、東日本大震災を経て東京オリンピック後に至る50年史を、10年ごと全六章に切り取ってゆく。
若葉町の〈旧住民〉で、町役場職員〈小島健児〉は造成途上の町を眺めながら、〈なんかみんなおんなじに見えますねぇ〉とこぼし、その印象はこの町に念願のマイホームを求めてやってきた〈新住民〉とも重なった。だが彼はこうも思う。〈あの明かりの一つひとつは誰かが灯したものなのだ。誰かが灯し、過ごし、生活している証なんだ──〉と。
1969年東京生まれの中澤氏は15歳まで八王子の現・宝生寺団地、高1からは本書のモデルにもなった多摩ニュータウンで育ち、本作でいう新住民にあたる。