今年の2月12日以降、北朝鮮のミサイルは計12回打ち上げられている。そして、7月28日深夜に打ち上げられた弾道ミサイルは、過去最高の高度と飛行時間を記録した。金沢工業大学虎ノ門大学院教授で、34年間、海上自衛隊の海将などを務めてきた伊藤俊幸さんは、北朝鮮の国内事情が積極的なミサイル開発に影響していると話す。
現在、北朝鮮の金正恩政権は、「並進路線」を国民に掲げている。これは、先代の金正日総書記時代の「先軍政治(軍事優先)」とは異なり、「核ミサイル開発」と「経済建設」を同時に進めていくというもの。その象徴が、今年4月15日の北朝鮮建国の父・金日成の生誕105周年を祝う「太陽節」の軍事パレードだ。近代ビルが立ち並ぶ街中で、巨大なミサイルを披露するという奇妙な光景が映し出されたのは、記憶に新しい。
「“アメリカまで届く核ミサイルを持てば、それ以外の軍事費を抑えられ、その分を経済に回せる”というのが並進路線。あのパレードは国民に対して、成果が出ているのを見せる場でもあったわけです」(伊藤さん)
ミサイルは1発打ち上げるのに数億円はかかるといわれているが、北朝鮮は“国策”という錦の御旗の下、ミサイル開発に取り組んでおり自由に資産を注ぐことができるのだ。
◆日本にミサイルを撃ち込まれる確率は?
こう頻繁だと不安になるが、北朝鮮が日本にミサイルを撃ち込む可能性はどのくらいあるのだろうか? 前出・伊藤さんは「極めて低い」と言う。
第2次世界大戦後、陰惨な戦争を二度と繰り返さないために国際連合が設立され、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の五大国をはじめ国連に参加する国々が国連憲章を締結した。そのため、自衛以外の目的による武力行使は、現在一切認められておらず、自国の利益や意志を押し付けるための戦争は、いかなる理由があっても許されない。
さらに、この五大国はそれぞれ核を保有しているが、それを撃ち合うことは、同時に甚大な被害が生じることになるため、核が抑止力となり、核の保有国同士が攻撃し合うことは、まずあり得ない──。
「核を保有していない北朝鮮が、もし突然、日本にミサイルを撃ち込んできた場合、まず国連が武力制裁を決議しますし、同盟国であるアメリカは日本防衛のため、トランプ大統領が北朝鮮に向けて核ミサイル発射ボタンを押すこともできます。そうなったら、北朝鮮はひとたまりもありません。北朝鮮は、金王朝の存続が最大目的の国家ですから、その体制が消えてなくなるようなことはしませんし、そうなることもよく認識しています」(伊藤さん)
現在、世界平和は各国の外交に伴う均衡によって守られているが、そのバランスは日々刻々と変化している。世界情勢を知り、日本が列国の中でどのようなポジションにいるのかを把握し、的確で冷静な危機意識を持ち続けたい。
※女性セブン2017年8月17日号