薬の副作用に関する研究が今、世界中で進められているが、特に注目を集めているのが、薬とがんの因果関係だ。未解明だったその関係性が、最新研究で少しずつ明らかになりつつある。
ある刺激が原因で正常な細胞が「がん細胞」に変異する──簡潔に言えば、これががんの発生メカニズムだ。
「肝がん」なら肝炎による炎症、「皮膚がん」なら紫外線と原因は様々だが、「細胞をがん化する刺激」のなかには、病気を治療するはずの「薬」も含まれてしまう。
「薬の成分が正常細胞を変化させたり、免疫システムを抑えこんだりすることで身体のバランスが崩れてがんが生じるリスクがあります」(医療経済ジャーナリストの室井一辰氏)
病気を治す手段として患者が望みをかける薬が、かえってがんという大病を招く可能性があることを提起したのは、医療界の最高権威、世界保健機関(WHO)だった。
「WHOは2015年、“がんの原因となる116の要因”というリストを発表しました。『喫煙』や『飲酒』と並んでベーコンなどの加工肉に発がん性があるとして話題になりましたが、医学界に衝撃を与えたのは、それよりも『抗がん剤』や『免疫抑制剤』、『ホルモン剤』といった薬剤が含まれていたことです。
たとえば抗がん剤は、がん細胞への攻撃力が強い反面、それ以外の細胞も損傷するため、発がんの要因となることが明らかになりました。
このWHOレポートを始めとして、これまではエビデンスに乏しかった薬とがんの因果関係が徐々に明らかになり、2000年以降、世界各国でこのテーマを研究した論文が増えています」(室井氏)