伊吹文明・元衆院議長のその言葉を聞いたとき、安倍晋三・首相の耳には何かが瓦解する音が響いたかも知れない。
「総理大臣を指名する国会の長である議長経験者が、一閣僚となって総理の下についてしまっては、国会の品位が下がるのだよ」
内閣改造に先立つ7月31日、首相官邸で極秘に向かい合ったときだ。文科相就任を要請した首相に対し、伊吹氏はそんな言い方でたしなめたのだという。
「大蔵官僚出身で文科大臣2期をはじめ、財務大臣、労働大臣など4つの閣僚と幹事長を歴任して国権の最高機関である議長を経験した伊吹さんは現在の自民党で唯一、霞が関を信服させることができる人物。だから総理は文科相に白羽の矢を立てた。その伊吹さんに断わられたことで、政権を立て直すための改造人事の構想が完全に狂ってしまった」(内閣官房の中堅官僚)
ちなみに「10年前の安倍第一次政権で“閣議学級崩壊”となった時にも伊吹氏はベテラン大臣(文科相)として安倍首相を諌めたことがあった」(閣僚経験者)というのも因果を感じさせる。伊吹氏の行動は与党内に衝撃を与え、政権からの離反ドミノが始まっていった。
安倍首相は公明党をつなぎ止めるために留任が内定していた石井啓一・国交相に加えて、「2人目の入閣」を提案。何もせずに大臣ポストが増えるのだからこんなおいしい話はないはずだった。ところが、山口那津男・代表はこれを断わる。“お前の政権はもう死に体だ”と宣告されたに等しい。
次に逃げ出したのがポスト安倍の有力候補である岸田文雄・前外相だ。細田派議員が語る。