病の原因を直接取り除く「手術」は医療における最も基本的な治療方法であり、その「効果」は立証されている。
がん治療でも、放射線治療の進歩、抗がん剤の開発が進んでいるとはいえ、「切れる」のであれば、外科手術は依然、医師にとって第一の選択肢といえる。しかし、高齢者の場合、がんの発症部位によって効果の高い手術、低い手術があることがわかってきている。前立腺がん・咽頭がんでは、手術の有無による5年生存率の差がほとんど見られない。そして、がん以外にも高齢者が慎重に検討すべき手術がある。
◆脊柱管狭窄症、頸椎症
高齢者に非常に多い病気だが、医師の腕や手術方法によって予後は大きく変わってくる。医療ジャーナリストの油井香代子氏が解説する。
「筋肉まで剥がす頚椎後方手術は高齢者には負担が大きく、たとえば“手のしびれは治ったが肩や首に痛みが出た”など術後に別の症状が出る可能性がある。同じ手術でもできるだけ低侵襲の治療法を検討したいところです。たとえば頸椎症では『選択的椎弓形成術』という手術がある。首の後方の筋肉の損傷を最小限にでき、早期退院が可能なので高齢者向きです」
◆変形性膝関節症、変形性股関節症、関節リウマチ(人工関節)
「何とか歩けて日常生活が送れる高齢者は、焦って人工関節にする必要はないでしょう。一度、人工関節にしてしまうと摩耗していく一方で、違和感や痛みが出てもそれを一生抱えていくことになる。また静脈血栓閉塞症になるリスクが高まり、抗血栓薬を飲み続けることになりかねない。手術を受けるかは慎重に考えるべきでしょう」(同前)
手術をするかの決断は成功率だけでなく「術後のライフスタイル」まで想像するのが必須のようだ。
※週刊ポスト2017年8月18・25日号