金正恩の異母兄・金正男氏がマレーシアで殺害されてから約半年。遺体の引き渡しについては北朝鮮とマレーシア政府の間で交渉が難航。正男氏の息子・ハンソル氏が、「遺体は火葬してほしい。いかなる理由があっても遺体を叔父の金正恩氏や北朝鮮政府に渡さないで」と望んでいたが、その願いは叶わず、3月31日に北朝鮮に引き渡された。
その後、遺体に関する情報は途絶えていたが、最近になって韓国メディアが続報を打ち始めた。韓国から北朝鮮住民に向けて放送しているラジオ局「国民統一放送」は6月7日に、こう報じていた。
〈北朝鮮当局は徹底的に遺体についての関連事実を隠蔽している。葬儀はせずに、遺体も極秘裏に処理されたはずだ〉
また、経済誌「ソウル経済」(7月30日付)には、こんな記述があった。
〈遺体が正恩氏にとっての“頭痛の種”にならないよう、跡形もなく消した可能性がある〉
北朝鮮がここまで徹底的に正男氏の痕跡を消そうとする訳について、韓国駐在経験のある大手紙記者はこう分析する。
「北朝鮮では、正男は非公表の存在。金日成につながる“白頭山の系譜(*)”であることから、正恩と比較されてしまう可能性があるからです。そのため、正恩は正男が生きていた証そのものを消したかった。マレーシアとの協議でも、遺体はもちろん、解剖の際に取り出された肉片や組織片までもすべて引き渡すことを要求したそうです。『正恩が遺体を切り刻み、肉片も含めてすべて焼却処分するように指示した』という話もあります」
【*「白頭山」は抗日ゲリラの拠点地として金日成が滞在していたとされる山で、金正日がそこで誕生したという“伝承”がある。北朝鮮のロイヤルファミリーの血統を意味し、金一族による世襲統治の正当性を示す言葉として用いられる】
実行犯の女2人の初公判がマレーシアで始まるのは10月2日。事件の真相は明らかになるのだろうか。
※週刊ポスト2017年8月18・25日号