人が度を超して調子に乗ることを「羽目をはずす」という。これは馬にまつわる慣用句で、羽目は馬具の「ハミ」に由来しているそうだ(諸説あり)。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、ハミを外して暴れ出す荒馬の様子、「放馬」が馬に残すトラウマについて考察する。
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返し馬やゲートに入るときなどに競走馬が騎手を振り落として逃げてしまう。鞍上の立居にスキがあったのかどうなのか、一瞬のアクシデントです。馬が極度に興奮したために起こる事故ですが、なかには、馬が意図して(?)振り落としているようなときもある。
放馬した馬は関係者が一丸となって捕獲し、馬体検査を行なって出走の可否を決めますが、故障してしまったり疲労が著しいときには競走除外となり、その馬に関連する馬券は返還されます。
馬にとっては気心知れたはずの騎手の存在さえもストレスで、本来背には誰もいないほうがいいのです。「鞍上人なく、鞍下馬なし」という故事は人馬一体になった見事な騎乗という意味ですが、本当に騎手がいなくなってはコントロールがきかず、競馬ができません。
落馬を含めた放馬でもトラウマが生まれます。放馬には2種類あります。放馬後にゆったり走る場合と、いきり立って暴走する場合。
前者は背中が軽くなって清々している。いわば放牧に出た感じで、人間のことを気にすることなく馬体をのびのびとストレッチできる。周囲の動揺を尻目にメンタル面でリラックスしているかもしれません。そういう馬は、ある程度走ると満足します。そして寂しくなり、人や他の馬に寄り添いたくなって簡単に捕まることが多い。