新国劇の女優であった女将さんは、貴乃花親方から「相撲部屋の息子としての苦労はいろいろあります。息子さんの気持ちもよくわかりますから」と気遣ってもらってありがたい、と話していた。相撲部屋に生まれた男子の宿命を貴乃花親方は感じているのだろうけれども、女将さんとご長女の演劇への関わりから思えば、竜勢が芸能界入りしていても不思議ではなかった。
すっかりたくましくなった竜勢は二〇一六年七月場所、幕下四十四枚目で全勝優勝をした。翌場所の幕下四枚目はさすがに家賃が高く負け越しを続けていたが、幕下五十三枚目での去る七月場所は昨年のアマチュア横綱の矢後と優勝を争った。六勝して大きく番付が上がるが、一回り大人になっている竜勢であろうから、前進していくのではないかと期待している。
いつか竜勢には十両に昇進してほしい。もちろんその先のステップも、優勝も。その時、鏡山親方は泣くだろうか。実験のようで悪いのだが、号泣おじさん柏戸のせいで、多賀竜は泣かない人のような気がしている。
※週刊ポスト2017年8月18・25日号