ここ数年、契約をめぐる芸能人と事務所とのトラブルが次々と表面化し、社会問題となっている。問題解決へ向けて、行政も黙ってはいない。7月、公正取引委員会が芸能事務所の調査を始めたと報じられ、8月には公正取引委員会の有識者検討会が議論を始めた。そこでは、芸能人やスポーツ選手が移籍・独立するにあたり、独禁法上の問題となる契約や慣習がないか論じられている。契約や慣習が適正化されるのは、まだ先のことになるだろうが、いまも毎日、その理不尽な掟に振り回される人が大勢いる。ライターの森鷹久氏が、事務所によって自殺直前までに追い込まれながら、なんとか立ち直った女性モデルについてリポートする。
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最近では人気タレントのローラさんが、昨年には能年玲奈こと女優の「のん」さんが、所属事務所とのトラブルが報じられ、のんさんなどは一時、芸能の仕事がまったくないという事態が起きた。都市伝説的に「怖い世界」だと囁かれてきた芸能界事情は、一般人が想像するよりもはるかに「ブラック」で、ついに公正取引委員会が、芸能界のみで通用し黙認されてきた、事務所に有利すぎる実態の調査にも乗り出すという。
某大手事務所傘下のプロダクションに所属するモデルの夢香さん(仮名・27歳)も、前所属事務所からのありえない要求を我慢し続けた挙句、順調だったモデル活動に狂いが生じ、ほとんど自殺の直前まで追い込まれた過去がある。
「友人といったファッションショーの帰り道で、前所属事務所のスカウトに声をかけられたのがきっかけです。小さなプロダクションでしたが、ViViやCanCamなどの赤文字系雑誌読者モデルも何人か所属していることも知っていました。元々モデルに興味があった私は、翌日には両親を説得し、事務所に所属することに決めたんです」
身長は170センチ近くあり、休日の原宿や渋谷を歩けば、必ずスカウトに声をかけられたという夢香さん。「素材」としても抜群だった為か、所属してすぐにチョイ役ではあったが、雑誌の仕事が舞い込んできた。最初の撮影では拘束5時間で、収入は五千円ほどだった。事前に簡単なポージングや表情作りの研修を受けていたものの、汗びっしょりになりながら、なんとか撮影を終えた。
「やっと、本当の”モデル”になったんだと感激でした。メイク企画にも呼ばれるようになり、モデルとしての仕事が増えてくると、本業だった化粧品販売員の仕事を辞めざるを得なくなりました。今思えば、これがすべての間違いだったのかもしれません。私は騙されもしましたが、自分自身が少し調子に乗りすぎていたのではないかとも思うんです」
週に3~4日も撮影に呼ばれていては、日中の仕事は出来るわけがなかった。正式な契約を結び、事務所からは固定給をもらうようにもなっていたが、その額たった10万円。実家暮らしだからよかったものの、満足な暮らしは出来なかった。そのような生活が半年ほど続き、夢香さんは事務所社長からの直接指示で様々なことをやらされるようになった。