中国において「産み分け」の需要が減ることはないのはなぜか。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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7月末、中国深圳市の皇崗海関(税関)は、怪しい荷物を香港に運び込もうとしていた女性を捕まえ調べたところ、なかからパッケージされた203本分の人間の血液サンプルがみつかった発表した。
同時に税関は、この女性がある種の運び屋で、運んでいたサンプルがすべて妊婦から採取したもので、交通費や報酬も受け取っていたことを認めたと発表した。
「女性の行動の意味が性別判断だったってことは、誰もが分かったはずです。そして出産前に胎児の性別が知りたいというのは、いまだ男尊女卑の傾向を持つ中国社会において、胎児が女と分かれば中絶するかもしれないという大きな問題に直結するため、深刻に受け止められます。人々にとっては衝撃のニュースでしょうね」(北京の夕刊紙記者)
ニュースはたちまち、色とりどりに並んだ血液サンプルの前で説明する二人の女性税関職員の写真とともに配信され、大きな反響を呼ぶことになった。
この事件を問題視した人々の中でも、最も強い反発が起きたのが、「いまや『二人っ子政策』が認められているのに、なぜまだこんなことをするのか」という点に対してだった。
中国は一人っ子政策から、両親がともに一人っ子である場合には二人目が許されるという緩和策を経て、2015年10月から「二人っ子政策」が全面的に認められた。それでもなお、産み分けに対してこれほどのエネルギーを費やされている。
受胎後の早い段階で胎児の性別を知りたがるのは、農村が男性を労働力として重宝したり、女性しかいないと後継ぎに困るという古い因習が絡むためである。つまり、産み分けは一人っ子の制限という時代錯誤の政策を依然想起させるものなのだろう。
この事件がいみじくも抉り出したのは、一気に外の価値観を受け入れる都市において、いつまで古い価値観にとらわれるか、のギャップであり、ある種の中国の縮図であった。