今クールのドラマで、最も鮮烈な印象を与えている役者のひとりが武井咲である。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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『全日本国民的美少女コンテスト』の15代目が京都の中学2年生・井本彩花さんに決まりました。8万150人の頂点。彼女は夢について「武井咲さんのような女優になること」と語りました。
今、その武井咲さんは、輝きに輝いている。
これまでは清純派、美少女、お嬢様系、同コンテストの出身者代表としても常にそうした位置にマッピングされてきた武井さん。そのお嬢様系の位置取りを、敢えて「外した」おかげでブレイク!
『黒革の手帖』(テレビ朝日系木曜午後9時)で、銀座のクラブママ・原口元子役が惚れ惚れするほどの出来。まさか水商売のトップに君臨する悪女役に、武井さんがこうも適していたとは……。
「皆さんが抱く私のイメージも変わっていくかもしれませんが、その変化も怖くない。むしろそうならなくてはいけない」とご本人も宣言しています。
でも、「変わらなくては」と意気込みすぎて空回りしてしまったり、背伸びしすぎてむしろ痛々しかったり。「やっぱりあの役は合わないよね」「汚れ役は無理だわ」という残念な結果になることの方が多いかもしれません。
しかし武井さんは違った。見事にイメージを覆した。銀座ママ役がこうも板に付いていて説得力がある理由は? 3つの点から観察してみました。
【その1】表情と視線
政治家や大女優はちょっと意外ですが、特定の人、つまり一つの点だけを「見つめない」といわれます。どこかを見ているようでいて実はふわっとした視線を投げている。あえて焦点をあわせず全体を見渡すような視線を心がけている、と。そうすると、群衆の心理としては「あっ、あの人は間違いなく私を見ている」と感じる。そう思わせることができるのです。
つまり、視線一つにも戦略が込められていて「銀座のママ」という仕事はそれを駆使し、まさしく多くの客を相手に「私に気があるな」などと誤解させることが技になる。難しい仕事です。
ドラマの中の原口ママの目線はどうでしょう? 冷静なニュートラルさ、どこか宙を漂うような視線が見事に演じられている、そう思えます。物腰も冷静。じたばたしない。たとえ相手が怒髪でつかみかかってきても、客観視しているような風格。そうした雰囲気が漂っています。だからこそ、今回のママが「はまり役」という評判につながっているのではないでしょうか。
【その2】声と口調
耳を傾けていると「速度」と「高低」に特徴が潜んでいます。「速度」—–意図して一拍置いて間あいを取る。ややブレーキを踏んでいるような、ゆったり感で語る。相手のペースに決して巻き込まれない。
「高低」—–感情を抑制。極端に高い声や低い声を出さないことも自分優位に戦うための秘訣。武井さん自身の鼻に抜けるような甘い声質を変えることは難しくても、声の細かな演技、制御が感じられます。
【その3】着せ替えが映える圧倒的身体性
このドラマを見ていて楽しい点。それは次々に変わるゴージャスな衣装を見事に着こなす武井咲さんの女優度の高さです。
白い訪問着に白い帯を颯爽と身につける。ストライプのワンピースと『ティファニーで朝食を』でヘプバーンがかけていたような尖ったサングラスといういでたち。まさに目が喜ぶ、コスプレ。「衣装も化粧も芸のうち」である銀座のママを、地で行くような演技です。