「韓国の中高生の前で話をしてもらえませんか」。ジャーナリスト・森健氏は7月、突然そんな申し込みを受けた。招聘したのは釜山に本社を置くリベラル系出版社。冷え込んだ日韓の政治関係の中で、韓国の若者たちとの対話は明るい未来を予感させるものだった。森氏の「ジャーナリストレポート・釜山の若者との対話」を3回に渡ってお届けする。第1回は若きリベラリストたちの本音、である。
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「むずかしいかなと心配ながら聞くんだけど、来月の前半、釜山に来られる時間ある?」
英文でそんなメールが届いたのが今年6月前半のこと。
英ケンブリッジ大で哲学を専攻しているパク・ヨンジュンからだった。聞けば、7月前半に釜山で中高生を対象とした連続講義の「キャンプ」があり、その講義に私に出てほしいという話だった。しかも7月に2回。
「できれば、7~8日と、翌週の14~15日の2回。忙しいとは思うけど、どうだろ?」
カレンダーにはどちらの日にも「締切」マークが付いていたが、すぐに「いや、とにかく行くよ!」と返信した。
ヨンジュンとその仲間に会うのも魅力的なら、釜山の子たちと話す機会があるのも興味深い。こちらこそ喜んで駆けつけたいところだった。
ヨンジュンが本来所属しているのは、韓国・釜山に拠点を置く出版社「インディゴ書院」。彼は季刊誌「INDIGO」の編集長でもある。
3年前の2014年夏、突然彼からメールがあった。
彼は「あなたの本を読んで、連絡しました」として、8月の半ばに、釜山でインディゴ書院主催の大きなイベントがある。そこで講演をしてくれないかという話だった。なぜ私なのだろうと思ったが、その理由はこの年に起きた痛ましい事件にあった。
この年の4月、韓国では修学旅行中の高校生300人近くがなくなるセウォル号沈没事故が起きた。避難に伴う運営側の不手際が多くの犠牲につながったセウォル号は明らかに人災だった。ただ、突然の大量死という点では、大規模な死者が出る自然災害にも似ている。痛ましい大量死を前にヨンジュンらの頭に浮かんだのが、日本の東日本大震災だった。あの震災の悲劇を日本人はどのように乗り越えていったのか、中高生や大学生たちはいちどきに大勢なくなった事態をどう受け止めるべきなのか──。そう考えているときに、韓国で出版されていた私の著書『「つなみ」の子どもたち』を読み、私に聞いてみようと考えた、という次第だった。同書はあの震災で被災した家族を描いたドキュメントだった。
何度かメールを交わし、また、渡航前にはSkypeでも話してみると、非常に気が合うことがわかり、行くことを決めた。