明徳義塾高校・馬淵史郎監督が報道陣に人気があるという。一般の野球ファンが持つイメージとはギャップがありそうだ。魅力の秘密はなにか。現地で取材を続けるフリーライターの神田憲行氏が説明する。
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甲子園に出場すると、記者の取材の囲みが最後までとけないで、ずっと人の輪が出来ている監督さんがいる。
明徳義塾高校の馬淵史郎監督もそのひとり。明徳義塾が甲子園に来ると、私も試合前取材の最初から最後までずっと馬淵さんの前にいる。
その魅力は野球についての高い見識、も、あるが、やはりユーモアだ。たとえば今大会では1回戦の試合前、
「うちは下位打線からチャンス作って点を取ることが多い」
と自チームの説明をしながら
「7、8、9番でチャンス作って、1、2番でランナー返して、ほんで3、4、5番でチェンジや(笑)」
と笑わせる。延長戦を制した1回戦の試合後の取材では、テレビインタビューを受けるお立ち台に登る際に汗だくの顔をタオルで拭きながら、
「はぁ~勝ったわ……」
とつぶやいて周りの記者を和ませた。
2回戦は雨で順延になったが、雨天練習場での取材でも、取材用のお立ち台に登ることを高野連関係者に促されて、
「ここに登んの? なんか勝ったみたいやわあ」
といそいそと上がって、記者たちを笑わせた。
名言も多い。去年は投手の理想の立ち上がりについて、
「飯炊くみたいに」
と形容した。そのココロは、「初めチョロチョロ」である。派手に三振を取って力投型で立ち上がるのでなく、内外野に打たせて取る、静かな立ち上がりがいい、ということだ。
過去の名言で私のお気に入りは、最近はあまり言わなくなったが、負けて甲子園から帰るときに言い残していく
「終着駅は始発駅」
というものがある。失敗から立ち上がって再スタートを切るときに自然と胸にわき起こるような、汎用性の高い言葉だと思う。