ジャーナリスト・森健氏は韓国の中高生の前で講演するために、7月に韓国・釜山を訪れだ。その模様を3回に渡ってお届けする「ジャーナリストレポート・釜山の若者との対話」。第2回は「釜山の光と影」。格差社会が広がる釜山との街とその背景を紹介する。
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遠くから見れば、光に輝いて乱反射が激しい。まるでいつか描いた“未来社会”のようにも見える。今年7月、講演で訪れた釜山の新しい中心地、海雲台(ヘウンデ)地区は輝くような高層ビルが乱立していた。
この周辺には、50階建て以上のビルが20カ所以上あり、そのうちもっとも高いビルは80階を超える。日本でもタワーマンションは人気だが、高さでも、開発規模でも、釜山は比較にならない激しさだった。当然、価格も階数に比例するように高い。
「上方階? だとすると、数億円はくだらないな。買っているのは、年収レベルで言うと4000万円以上。職業で言うと、医者や弁護士、それと外資系など有力企業の社員もいる。まさに格差の象徴があの高層ビル群なんだよ」
近くを車で通りながら、季刊誌「INDIGO」の編集長、パク・ヨンジュンが教えてくれた。
こうした高層ビルがヘウンデ地区に乱立的に建てられるようになったのは2000年代に入ってからのことだという。「韓流」の名のもと、映画や音楽など文化産業にも大きな投資がなされている頃で、ヘウンデ地区には「映画の殿堂」という映画振興の施設や大型コンベンションセンターの「釜山国際展示場(Bexco)」、世界最大のデパート「新世界」などが競ってつくられた。そうして林立する高層ビルの中には、米大統領の所有する「トランプワールド」という高層ビルもあった。運転席から指差しながら、ヨンジュンが言う。
「あんなのまったくうれしくない。トランプワールドって……悪い冗談のようだよ」
ヨンジュンはそう言って困ったような顔をした。ひと昔前にはヘウンデ地区で最大だったというロッテデパートは、現在見るとマンションの中のアパートのようにも見えた。
そんな商業地区から数百メートル離れたところに立つ高層ビル群は、気象的な変化も引き起こして社会問題にもなっているという話だった。
突然つくられた高層ビル群のせいで、海からの風が陸地に入ってこなくなり、夏は気温が以前よりも高くなった。また、その高層ビル自体が熱をもっているために、そこで留まった空気が水分を含んで滞留し、ビル群を覆う雲のようになる現象が起きている。
「おかげで曇りが多くなった。高層ビルの人たちにとっては、上の階の人は朝の時間は雲しか見られなくなってる」
そんな風景は翌朝見ることができた。