ネットの普及により、古今東西あらゆる類のコンテンツが身近になった。その事実は、ドラマ制作の手法にも確実に変化をもたらしている。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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夏ドラマの中でも独特な快走ぶりを見せ、目が離せない作品があります。『愛してたって、秘密はある。』(日本テレビ系日曜22時30分)。物語はすでに第5話、つまり折り返し地点まで進んでいます。それなのに……。何が凄いと言って、極端に言えば「たった1つのこと」しかわかっていない。それが凄い。
その1つのこととは…「奥森黎は、実父を殺し自宅の庭に埋め、父の車を海に沈めた」。それだけ。
物語の筋は……福士蒼汰演じる主人公・奥森黎は、母の晶子(鈴木保奈美)に暴力を振るう父の姿を目撃し、母を守ろうととっさに手近にあったトロフィーで父の頭を殴り殺害してしまう。それ以後2人は「父は失踪した」ということにし、「秘密」を守って生きてきた。
まずは第1話冒頭、はっきりと「犯行シーン」が示されました。犯罪を犯し隠蔽する母と子。事件の構造は単純です。しかし、回が進んでいろいろな出来事が起こっても理由や原因が何だかわからない。
ある日突然、凶器に使ったトロフィーが、黎の恋人・爽(川口春奈)の元に送りつけられたり。差出人不明のメールに、「土の中 海の底 かくれんぼは、もう終わりだ」などと事件の核心が記されていたり。恋人のために購入した婚約指輪が、なぜか死んだ父がしていた結婚指輪にすり替わっていたり。
つまり、「秘密」を知る誰かがたしかにいるのです。その誰かから次々に不気味なメッセージが送りつけられてくる。しかし、謎が膨らむばかりで誰の仕業かわからない。目を皿のようにしてテレビを見ている視聴者でさえ、その「黒幕」とはいったい誰なのか、見当がつかない。
推理ドラマといえばたいていの場合、「この人が怪しい」という容疑者が数人現れ、だんだんに犯人が絞られていくのが常套手段。しかし、『愛してたって、秘密はある。』はタイトル通り、すべての人がそれぞれ秘密らしきものを抱えている。すべての人が怪しい匂いを漂わせている。
川口春奈が演じる、元気で明るい司法修習生・爽にさえ、恋人の黎に隠している「秘密がある」という設定です。
登場人物の中から「黒幕」を探し出そうとすると、対象になる人は言ってみれば全員。今話題の不倫ニュースばりにいえば「全員がオフホワイト」になってしまう。この人もあの人も黒幕でありそうでなさそうで。なんだか幻惑されてクラクラするあたり、ドラマ世界に閉じ込められてしまった証し。