『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)で演じたアメリカ帰りの元女優役が話題を呼んだ冨士眞奈美さんと、『九十歳。何がめでたい』が90万部を突破し、ベストセラーランキングを席巻中の佐藤愛子さん。とにかく元気なおふたり。冨士さんが人生の先輩で「憧れの人」佐藤さんと対談。佐藤さんの父・佐藤紅緑さんと正岡子規について語った。
◆子規と紅緑と俳句
冨士:先生、この本が面白かったんです。森まゆみさんの『子規の音』。お父様の佐藤紅緑さんのことがいっぱい出てきます。正岡子規にとても褒められていて。松山に戻った高浜虚子に、わざわざはがきを書いて紅緑を褒めている。読んだ虚子はカチンときただろう、っていうぐらい紅緑さんを気に入ってね。
佐藤:へえ、そう? いつも叱られていた、という話しか知らなかった。
冨士:もしよろしかったらお読みください。
佐藤:子規の俳句がお好き?
冨士:好きですね。好きじゃないものもありますけど、生き方がすごい人です。34才で亡くなってしまうんですが、その間の自分のことを『病床六尺』などに書いて。俳句が好きで、短歌が好きで、本当に書くことが好きで。
佐藤:父は、よく子規の話をしてましたよ。日本新聞社で机が隣同士になったの。俳句を作れって。1日50句作らなきゃいかん、と言って無理やり作らされた。それが俳句を作るようになった始まりです。すごく強引な人らしいんですよ。
冨士:子規の周りには、高浜虚子や河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)、内藤鳴雪、夏目漱石なんかもいるんですよね。
佐藤:漱石の俳句は私も好き。子規はユーモア感覚のある人で、父の俳句には割と諧謔(かいぎゃく)が多いので面白いって褒められたみたいですけどね。
不良少年で親不孝の限りを尽くした2番目の兄は、父が少し老耄(ろうもう)した時、さすがに心が痛んだらしく、親父を励まそうと句会を始めたんです。「紅緑会」といって、兄の友達が5、6人集まり父に添削してもらう。10代の私も無理やり入れられて、2年ぐらいやりました。
冨士:時々、エッセイの終わりに俳句を載せてらっしゃいましたね。
◆だからひとりが好き
と、ここで佐藤さんの座るソファの後ろにあった電話が鳴った。佐藤さんがササッと立ち上がり、電話にしばらく応答。佐藤さんの素早い姿に驚いた冨士さんのこんな言葉で対談が再開した──。