北朝鮮が8月29日午前5時58分頃、太平洋に向けて弾道ミサイル1発を発射した。弾道ミサイルは日本上空を通過して2700kmを飛行、北海道襟裳岬の東方約1180kmに落下した。北朝鮮のミサイルが日本列島を飛び越えたのは、南西諸島を除き、2009年4月に人工衛星打ち上げと称して長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の改良型を発射して以来である。
もはや“挑発行為”では済まされない北朝鮮の度重なるミサイル発射──。それでも米国は軍事行動を起こさず対話路線を重視するのか。そして、いつミサイルが着弾するか分からない日本は、いつまで米国追従を続けるのか。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が緊急レポートする。
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北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む長距離ミサイルを開発する理由は、北朝鮮が米国の脅威を感じているからだ。このため、北朝鮮の外交の主軸は米国となっている。
日本や韓国は米国に追従するだけであるため、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」で日本や韓国を非難はしても、あまり重視していない。北朝鮮が最も警戒しているのは、日本と韓国に駐留する米軍とグアムや米国本土から増援される部隊であり、自衛隊や韓国軍は二の次となる。
北朝鮮の対米外交の最終目標は、米国との平和協定の締結にある。つまり、1953年の朝鮮戦争の「休戦」を「終戦」に持ち込むのだ。「終戦」となり平和協定が締結されれば、北朝鮮の“独裁政権”を米国が事実上容認したことになり政権は今後も維持される。
しかし、その前に米国の脅威となるICBMや核兵器をどうするのか、という大きな問題がある。この問題が解決されないかぎり、朝鮮戦争は「終戦」にはできない。そこで登場するのが、弾道ミサイルを使っての「脅し」なのである。
◆脅しで米朝対話を要求
国連の安全保障理事会は8月5日、北朝鮮が7月に実施した2回のICBM発射を受けて、新たな制裁決議を全会一致で採択した。しかし、今回の弾道ミサイル発射は、あえて太平洋に向けて発射することにより、国連安保理決議を無視し、さらに経済制裁をも無視する余裕があることを改めて強調したものといえる。
太平洋への発射は、最近の日本海へ落下させる実験よりも米国を強く刺激することができる。太平洋に落下させた意図には、ミサイルの開発が着々と進んでいることを米国にアピールする狙いもあったのだろう。
これまでの米朝関係を振り返ると、北朝鮮が強硬姿勢に出る時は、米朝直接対話を要求するときであった。この手法は「瀬戸際政策」とも呼ばれている。「瀬戸際政策」は北朝鮮が1993年にNPT(核拡散防止条約)からの脱退を表明したところから始まる。いまや使い古された手法だが、結果的に米国の譲歩を勝ち取り、経済支援を受けるなどの勝利を収めてきたことは事実だ。
今回の弾道ミサイル発射も核実験とともに対話の実現を目指したものであろう。つまり、米国を対話のテーブルに着かせるためのカードというわけである。
◆「圧力」しかかけられない米国
北朝鮮に軍事攻撃を加えようにも、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯である。2018会計年度で戦費として約7兆1000億円を計上しているほどだ。
このような状態で北朝鮮との「二正面戦争」を遂行することは不可能に近く、トランプ大統領としては現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため、たまに強硬な発言をしていても、北朝鮮だけに対応する余裕はない。このため北朝鮮は「後回し」となるだろう。
北朝鮮はこうした米国の苦しい事情を見透かしている。いまが米国に対する圧力のかけどころだと判断したのかもしれない。
今後、弾道ミサイルの発射が続き、たとえ北朝鮮に対する警告の意味であっても、米国が北朝鮮近海や核関連施設などへミサイルを発射することは現実的ではない。北朝鮮が反撃する可能性がゼロではないためだ。