【著者に訊け】小島慶子さん/『るるらいらい 日豪往復 出稼ぎ日記』/講談社/1458円
【本の内容】
家族の暮らすオーストラリア西海岸パースと、テレビ出演や講演の拠点とする東京を往復する日々の中で、家族、仕事、女である自分を見つめ、考え、綴ったエッセイ。もの心ついたときから聞かされてきた「幸福論」と、現実との乖離にとまどい、苦しみながらも、自分らしい新しい幸せを追求していく本音が小気味いい。特に夫に真正面からぶつかり、ときにお互いに傷つきながらも、愛を深め、希望をつなげていく真摯な姿に、学ぶところは多い。
オーストラリアと東京を往復して暮らしている小島さん。留守中の家族とのコミュニケーションは、テレビ電話とショートメール。
「今朝は夫が、庭のバラの花のつぼみの画像を送ってきました」
つぼみの美しさを共有したい、そんな思いと誕生日を迎えた妻への心づくしのプレゼントでもあったはずだ。
「私は“ありがとう、きれいだね”とすぐに返信しました。でも、それだけでは終わらない。“歯医者さん行った?”と続くのです」
夫が「まだ行ってない」と返してきたので、そこからが大変だ。
「なに? 歯科治療は生活習慣病の早期予防のためにも必要不可欠だと言ったではないか! しかも豪州では虫歯だって保険がきかないんだよ!と。歯医者ひとつで、長~いメッセージを送りつけられる夫が気の毒(笑い)。もっとやさしくしてあげたら、という人もいます。でも、それでは対話を封じるだけで、夫婦の関係は何一つ深まらないと思いません?」
年月とともに夫婦間ではあきらめの色が濃くなり、不満も抑えて、口をつぐみ、慣れ合っていく。
「それを大人の寛容というのかもしれない。でも、私はそんな心の広さを求めてはいないのです。それよりもお互いが何を考えて、何を求めているのか語り合いたい」
ともに黙してしまったら、
「相手が孤独に苦しみ、血や涙を流していてもわからない。だから、私は心の扉を叩いてあげて、なぜ涙を流しているの、あなたは誰? と問い続けたい」
本書の中で小島さんは、「夫婦バトルの根っこにあるもの」や「絆と溝、どっちが残る?」と、夫婦や家族とは何かを、執拗に問う。そして、次のように書く。
《あなたと一緒にいたいからあなたに変わってほしい、と徹夜で泣きながら訴えるのが愛じゃなかったらなんだろう》
この行間からあふれてくるのは、夫婦の強い絆ではないだろうか。ところで、先日、飛行機の中で映画『ラ・ラ・ランド』を見たという。帰宅してドアを開けると、
「なんと夫がそのテーマ曲を口ずさみながら夕食を作っている。まさか、夫があんなラブストーリーに魅せられるとは! 結婚して20年近くになる伴侶でも、知らないことがいっぱいあるんです(笑い)」
(取材・文/由井りょう子)
※女性セブン2017年9月14日号