映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、ミュージカル『レ・ミゼラブル』で、主人公を執拗に追う警部を演じた村井國夫が語った言葉を紹介する。
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村井國夫は一九八九年から、ブロードウェイのジョン・ケアード演出のミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演、主人公のジャン・バルジャンを執拗に追うジャベール警部を演じた。
「細川俊之さんにこのオーディションを教えていただき、歌の先生もご紹介してもらいました。朝に先生のところへ行って、昼に仕事して、夜また先生のところへという生活を続けました。
いろいろあって初演はやらずに三年目から出ました。初演では鹿賀丈史さんと滝田栄くんの二人がジャン・バルジャンとジャベールの両方を交代でやっていたのですが、二人が主人公一本でということになり、ジャベール役が必要になりまして。それで僕がもう一回オーディションを受けると言ったらジョン・ケアードが『それなら村井でいい』と言ってくれて。最初のオーディションの時からジョンとは気が合っていたんです。
ジョンはリアリティを大事にする演出家で、たとえば僕を真ん中に立たせ、共演者に囲ませて全員に質問をさせるんです。その役の生まれ、兄弟、恋愛観、セックス観、どんな病気をして、今は誰と一緒にいるのか。いい加減でもなんでも答えないといけない。
それを一人ずつ全ての役者に徹底的にやらせる。そうすると、答えているうちに自分の中で役のイメージが出てきます。多くのミュージカルでサイドストーリーをそこまで考えさせることはないのですが、そこまでやらないとリアリティはなかなか出てこないと思います」
『レ・ミゼラブル』には十三年にわたって出演し続けた。