団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年──。その超高齢社会を迎える準備は、全く整っていない。そうしたなかで、静かに深刻化している問題がある。認知症の行方不明者が2016年は年間1万5000人を超え、かつてないペースで激増しているのだ。
介護業界では「施設を抜け出すこと」を意味する「離設」という言葉がある。介護施設情報誌「あいらいふ」編集長の佐藤恒伯氏は「中規模程度の施設なら月に1回は離設の事案がある」という。プロの職員が目を配っていても、行方不明者は出るのだ。
2016年9月、介護業界関係者に衝撃が走った。デイサービス施設の非常口から抜け出した76歳の女性が、3日後に施設から1.5km離れた畑で凍死した状態で発見された。遺族が施設の責任を問うた訴訟で福岡地裁は「施設職員は女性に徘徊癖があることを認識しており、見守る義務があった」として施設側に2870万円の支払いを命じた。
介護保険では、施設に「身体的拘束等の原則禁止」を求めており、部屋の施錠などについても抑制すべきとの考え方がある。
拘束は許されないが、いなくなったら責任を取れ──急増する認知症の行方不明者は、介護現場にも暗い影を落としている。
※週刊ポスト2017年9月15日号