【著者に訊け】佐々木譲氏/『真夏の雷管』/角川春樹事務所/1600円+税
夏休みのある日。鉄道模型も扱う札幌狸小路の老舗煙管(キセル)店で工具を万引きした小学6年生が補導された。同じ頃、藻岩山麓通りの園芸店では水耕栽培の追肥となる硝安、約30kgが消失。しかし補導された少年は北海道警大通署生活安全課〈小島百合〉の前から姿を消し、一方、盗まれた硝安=硝酸アンモニウムからは爆弾も作れることを、刑事三課の〈佐伯宏一〉は掴む。
佐々木譲著『真夏の雷管』はこの2つの〈小さな事案〉を起点に、少年とある男が共有した孤独の顛末を追う。冒頭、JR苗穂駅に程近い跨線橋(こせんきょう)で列車を眺めながら、男は言った。〈鉄道が好きなのかい?〉〈うん〉〈ぼくも好きだよ。子供のころからずっと好きだった〉……たったそれだけの出会いが札幌中を危機に陥れるとは、もちろんこの時はまだ誰も想像していない。
「道警シリーズ」も本書でいよいよ第8作。狸小路に佇むジャズバー〈ブラックバード〉には、〈津久井卓〉〈長正寺武史〉〈新宮昌樹〉らお馴染のメンバーが集い、前作『憂いなき街』でとうとう結ばれた小島と佐伯は時おり朝食を共にする仲、傷心の津久井は長正寺共々機動捜査隊で鋭意活躍中だ。
「当初3部作の予定だったこのシリーズは特に4作目以降、人質事件や連続殺人といった警察小説の典型的な事件を佐伯たちならどう解決するかを描いてきました。最近は小島が作る朝食とか新宮の毎回ダメになる合コンとか、読者がニヤニヤできるモチーフの反復も意識しています(笑い)。
中には小島と佐伯はなぜこんなにじれったいのかという人や、『私立探偵スペンサー』(ロバート・B・パーカー)のスーザンとスペンサーみたいな距離感が好きだという読者もいてね。私も結婚に一度失敗している彼らには今くらいの関係がちょうどいいと思うんだけど、どうでしょう?」