超高齢社会が迫るなか、医療・介護現場の人手不足は深刻なままで、あぶれだした高齢者が施設ではなく在宅での「老老介護」を選ぶしかなくなる。そうしたなかで、静かに深刻化している問題がある。認知症の行方不明者が年間1万5000人を超え、かつてないペースで激増しているのだ。
認知症の症状やメカニズムには、わかっていない部分が多いが、その症状に「波」があるとする当事者の証言は少なくない。記憶のある時間帯と、すっぽり抜け落ちた時間帯が併存する状態である。
ここはどこだ──。もし自分が認知症行方不明者となったら、見知らぬ場所でいきなり、“我に返る”ことになるのかもしれない。
そこで名前や住所を思い出せればまだいい。実は認知症の行方不明者のなかには、存命であるにもかかわらず、何年もの間、家族のもとに帰れない事例もある。2007年に都内の自宅からいなくなった女性Aさんのケースがそうだ。
捜索願が出された数時間後に60km離れた群馬県館林市の交番でAさんは保護された。だが、Aさんの下着に書かれた名前を、署員が照会書に誤記してしまった。結果、捜索願と一致せず、身元不明者として介護施設に保護されたまま7年が経過した。Aさんを取り上げたNHKの番組を夫が見て、ようやく家族のもとに帰ることができたのである。
厚生労働省が2014年に調査したところ、身元不明のまま保護されている認知症患者は全国に35人存在することがわかっている。
※週刊ポスト2017年9月15日号