母に認知症の症状が出始めたころの大きな変化は、化粧をしなくなったことだった──。女性セブンのN記者(53才・女性)は、自らの母親についてそう話す。認知症の高齢者における微妙な変化について、N記者が振り返る。
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今から10年ほど前、父と母は長年暮らした団地を出て、東京近郊の街に引っ越した。当時両親ともに73才。小ぎれいなマンションを終の棲家にという一大決心だった。
母は新居のリビングにつけた真新しいカーテンを眺めて、「こういうカーテンの部屋に暮らすのがずっと夢だったの。ついに夢が叶ったわ」と、少女のようにうっとりしていたのをよく覚えている。
世間では「高齢になってからの環境変化は認知症のリスクを上げる」などといわれ始めていたが、当時の母は若い頃と変わらず、高齢者とは思えなかった。きれいに整えた眉、ふっくらした顔にキリッと赤い口紅を引き、指先にはピンク色のマニキュアと、いつも若々しかったのだ。
しかし、そんな夢の新生活から2~3年過ぎた頃、父母ともに同じ話を繰り返し、冷蔵庫に生鮮食品がたまるなど、認知症らしき症状が出始めた。
母は、毎日欠かさなかった化粧をしなくなった。たまに訪ねて行くと、玄関に出迎えてくれるスッピンのその顔は、わが母ながら、ギョッとたじろぐほどの老け込みようだった。
近所づきあいがめっきり減り、化粧する必要も、やりがいもなくなったのだろうが、「きっと認知症のせいだ。化粧の仕方も忘れたんだ…」と思うと、化粧のない顔を指摘することもできなかった。
◆母の口元に長~いひげを発見!
父が亡くなり、認知症の症状がいちばんひどく出ていたころには、着るものにも無頓着になり、家にいるときは、ヨレヨレのTシャツに父のステテコが定番スタイル。本物の“ザ・ステテコ”である。
「ちょっとやめてよ、その格好。配達とか、誰か来たらどうするのよ」
「いや~ねえ、着替えるわよ、当たり前じゃない!」
いや、おそらくは、ステテコ姿で対応し、みなさんをギョッとさせたはずだ。さらに私をヘコませたのは母の口元にヒョロっと生えた1本の毛。まるでナマズのひげのようである。まったく化粧をしなくなって、産毛も剃らなくなり、鏡も見なくなったのだろう。