認知症がある83才の母を持つ本誌・N記者(53才・女性)。母に認知症の症状が出始めたころ、大きな変化の1つは、化粧をしなくなったことだった。する必要がなくなったのか、できなくなったのか、徐々に老人顔になっていく母。「認知症だから仕方ない」のか…? N記者が新たに体験した「化粧療法」を取材した。
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女性にとって化粧はONとOFFのスイッチだ。そして、高齢者にもその“ON・OFF”が大切であることを、母を見て気づいた。長年、化粧や身だしなみが人に与える影響を研究し、介護施設などで『化粧療法』による美容教室や講座も行っている資生堂ジャパンの池山和幸さんに聞いた。
「『化粧療法』というと、笑顔が増える、気持ちが前向きになど、心理的効果ばかりと思われがちですが、実はもっと大きな力があるのです。
スキンケアやメイクなどの化粧動作は、食事をするときの2~3倍もの筋力を使っています。いくつかの化粧品を、どの順番でどう使うかを考え、色や香りなどを感じて鏡を見ながら腕や手指を動かすため、脳の視覚野、体性感覚野、運動野なども活性化すると考えられます。
実際に介護施設などで行った『化粧療法』の検証試験でも、徘徊が減ったり、握力がゼロに近かった人が自分でお椀を持ち上げて食べられるようになる、食欲が増進するなど、脳や身体的機能の向上がみられました」
特に眉を描く動作は、筋肉や脳を使うのだという。
「肩関節を動かす三角筋、ひじを動かす上腕二頭筋、握力を担う第一背側骨間筋、浅指屈筋、総指伸筋、鏡に向かう姿勢を維持する腹筋や背筋のほか、描くために相当の集中力も必要です」
なるほど、たしかに日常生活の細かな動作の多くは腕の筋力や手の握力が重要。これらの力が落ちれば、食事などが自力でできなくなり、要介護…となるわけだ。
「ですから『化粧療法』は、プロがきれいに化粧をしてあげるのではなく、“自分で化粧をする・楽しむ気持ち”を引き出すメソッド。自分で化粧品を手に取って化粧することで、腕や手指の筋肉が鍛えられ、香りやつけ心地に癒され、メイクで“よそ行き顔”になることで外への関心が湧くのです」
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