映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、ハリソン・フォードの吹き替えについて、養成所時代から変わらぬ先輩を追いかける精神について、そして芝居の限界について、村井國夫が語った言葉を紹介する。
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村井國夫は「スター・ウォーズ」シリーズや「インディ・ジョーンズ」シリーズの二カ国語版で主役のハリソン・フォードの吹き替えをしてきた。
「骨格がわりと同じような雰囲気でしたから、声にも違和感がなかったんだと思います。
でも、声優の方の芝居って苦手でして。なだぎ武さんがモノマネしている通りで、セリフの頭に必ず『っや』って妙なアクセントが入るんですよ。『っや、それがね』というアテレコ口調。それが嫌で嫌で。僕は『それがさ』って普通に言っていて、そこがハマったのかもしれません。
ハリソン・フォードは凄く素敵な役者ですが、あくまで『スター』であって、『上手い役者』ではありません。ですから、彼が芝居しているヒーローの魅力を壊さないようにしつつ、演じきれていない部分を助けるという気持ちでやっていました。
ただ、最近になって観た彼の作品では凄く上手くなっていた。役者というのは、ちゃんと愚直にやっていけば花が開くんだと思いました。僕もそうなる時を期待しながらやっています。
正直に言うと、誰かの芝居に声をつけるのは好きではないです。このあいだ『美女と野獣』をやりましたが、それはオーディションがあったからです。この歳になると、オーディションを受けることはありませんから、面白いと思ったんです。五十年以上も役者をやっていると、どこか慣れが出てしまいます。常に刺激を受けていたい」