往年の大スターが勢ぞろいしたドラマ『やすらぎの郷』(毎週月~金曜昼12時半~、テレビ朝日系)が、いよいよクライマックスを迎える。今作の脚本を手掛けた脚本家・倉本聰さんが、居を構える北海道・富良野でドラマにかける思いを語った。
富良野の自然が一望できるそのソファは、きっとお気に入りの場所なのだろう。倉本さんはアトリエでおいしそうに煙草をくゆらせながら、窓の外の白樺林をなめらかな筆づかいでスケッチしていた。東京から北海道の富良野に移り住んで40年が経つという――
「ここに小屋を建てて、最初に泊まりに来たのが女優の大原麗子(享年62)でした。あれだけの大スターが孤独死して、3日も発見されなかった。異常な死でしたよね。あまりに衝撃が大きくて、近しい人間としてはこたえました。実は、彼女の死が『やすらぎの郷』の執筆に深くかかわっています。
テレビ局の人間と違ってぼくら現場の人間はフリーの一匹狼で、何の保障もない。俳優だって、売れなくなったら事務所から捨てられちゃうだろうし。そんな老いた一匹狼たちを受け入れるのが“やすらぎの郷”です」(倉本さん)
◆八千草薫という沢庵石がなければいい漬物はできない
「思い入れの強いキャラクターを挙げるなら、やすらぎの郷創設者の加納英吉。そしてその加納が生涯をかけて愛し、守り抜いた女性、九条摂子ですね。姫(=九条摂子)が特攻前夜に少年兵と食事をするというエピソードがありますが、あれは木暮実千代さんや高峰三枝子さんなど、戦前の女優さんたちに聞いた史実をもとにしています。
何より今回は、姫を演じるヤチさん(八千草薫・86才)のお芝居がすごい。ヤチさんはオーバーなことは何ひとつしない、笠智衆さん(1993年死去、享年88)的な演技に変わってきている。
そこに心の美しさがジワッとにじんで、あの味はもう八千草薫にしか出せない。姫がいるから、『やすらぎの郷』が成り立っている。彼女は、漬物石的な存在です。その姫を殺しちゃったもんだから(第112話で死去)、続編を考えてほしいと言われても無理なんですよ。あの沢庵石がなかったら、いい漬物はできないですから」(倉本さん)
撮影/矢口和也
※女性セブン2017年9月28日号