【著者に訊け】唯川恵氏/『淳子のてっぺん』/幻冬舎/1700円+税
谷川岳、穂高、エベレスト……。これらは昨年亡くなった田部井淳子氏、ではなく、唯川恵氏が『淳子のてっぺん』執筆を前に自ら登った山だというから驚く。
「エベレストは5000メートルが限界でしたけどね。限界に挑んだ人のことを書くなら自分も体を張らなきゃと覚悟してはいたんですけど、ナメてました!(苦笑)」
福島・三春町で印刷業を営む石橋家の末娘に生まれ、1975年、晴れて世界初の女性エベレスト登頂者となった田部井氏の1977年の生涯を、本書では恋愛小説の名手にして直木賞作家が小説化。昭和14年生まれの主人公、旧姓〈石坂淳子〉が男社会の中で悩み、成長と停滞を繰り返す様は一篇の物語として読む者を魅了し、ここには世界的な登山家というより、どこにでもいそうな人間がいる。強くてか弱く、明るさも昏さも全て兼ね備えた、一人の昭和の女性が。
軽井沢に移り住んで14年。浅間山なら「たぶん100回以上登っている」という唯川氏が山にハマったのは、愛犬の死がきっかけだとか。
「元々軽井沢に越したのもその犬のためでした。『ペットロスのような時は辛い思いをするといい』と人に聞いて山に登り始めたんです。
そんな中で田部井さんとも人を介して知り合って、当時新聞連載で女性の一代記を書いてみたいと思っていた私は、『そうだ、田部井さんがいるじゃない!』と思った。ただ当時は現役でいらしたし、ご自分の人生を脚色なんかされたくないだろうと思って言い出せずにいたのね。