音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、今回は噺の面白さを最大限に引き出した故・柳家喜多八と、落語の本質を教えてくれる今の噺家について紹介する。
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数多くの持ちネタのどれもが逸品、抜群のセンスで噺の面白さを最大に引き出した柳家喜多八。昨年66歳で惜しまれつつ亡くなった、この「落語界の小さな巨人」の追悼企画CD「喜多八膝栗毛 特選名演集」が日本コロムビアより発売された。
4枚組で、鉄板ネタ『鈴ヶ森』『あくび指南』『いかけ屋』、上方落語の改作『夕涼み』『尼狐』、近年よく演っていた『三十石船』(浪曲の落語化)や『寝床』『小言幸兵衛』、喜多八の独壇場『盃の殿様』等々、「これぞ!」という絶妙なセレクトで、ブレーンの本田久作(落語作家)・草柳俊一(録音技師)両氏の「喜多八愛」を感じる素敵な企画だ。
この4枚組の音源は東京・博品館劇場で年4回行なわれていた独演会「喜多八膝栗毛」で収録されている。2006年に始まったこの会に、僕は毎回欠かさず通ったものだ。この独演会の音源は過去に6枚CD化されているので、それらも併せてお勧めしたい。
「喜多八膝栗毛」は2014年に書籍化されているが、もうひとつ、喜多八がレギュラー出演した落語会が2012年に書籍化されている。三遊亭歌武蔵、柳家喬太郎との「落語教育委員会」だ。2004年にスタートしたこの三人会はたちまち人気となり、様々なホールで不定期に開催されてきた。