『字が汚い!』(文藝春秋刊)という直球タイトルの書籍が話題となっている。汚文字に悩む著者・新保信長さんが美文字を書こうと悪戦苦闘する様を描いたもので、同じように汚文字(おもじ)に悩む多くの読者の共感を得た。日本筆跡心理学協会会長の根本みきこさんは、「汚文字にも2種類ある」と言う。
「1つは、字そのものにまったく興味がなく、きれいに字を書こうという気のない人。もう1つは、読む人の気持ちを考えず、相手が読みやすい字を書こうという心構えを持たない人です」
そのうえで根本さんは「汚文字が損をするとは言い切れない」と語る。
「筆跡診断に、“汚文字”の定義はないんです。字は1つのセンスにすぎず、きれい、汚いは関係なく、自分の字のクセをどう生かすかが大切なんです」
自分の字に絶望して以来、ペン字練習帳やペン字教室に励んだ新保さんは、その過程で「魅力的な字」があることに気がついた。
「字は書く人のキャラクターを表します。楷書的な字はきれいだけど画一的でつまらない。例えば漫画家の西原理恵子さんの字は決してきれいではないけど、一目で彼女のものとわかる。絵本作家のヨシタケシンスケさんの字も愛嬌があって、惹きつけられる字だと思っています。汚くても魅力的な字が書ければ、キャラが立ち、好感をもたれますよね」(新保さん)
医学博士の米山公啓さんは中学生の時、先生から「学年でいちばん字が汚い」と言われたが、むしろ嬉しかったと言う。
「字が汚いのも大切な個性。劣等感を持つ必要はありません。脳科学の観点からも汚い字を書く人ほど型にはまらず、発想が自由といえます。つまり汚い字を書く人には天才が多いんです。“東大生の字は汚い”なんていう通説もありますし、私の周りの医者の字も、みんな読めない程汚いですよ」
確かに字を書く機会はどんどん減っているが、自分で字を書くことは個性以外にも大きなメリットがある。米山さんが続ける。
「字を書くという行為は指先を細かく動かし、脳を刺激して脳細胞を活性化します。すると記憶力もよくなり、認知症の予防にもなる」
日本語は「トメ」「ハネ」「ハライ」などがあり繊細な動きが要求されるため、効果も高い。
「『文章を考える』『文字変換をする』『ペンの位置を定める』という一連の行為は、脳の感覚神経を広く使うため、パソコンのキーボードを押す単純な動作よりも、脳全体を刺激できます」(米山さん)
まさに字を書くことは、いいことづくしなのだ。
「たとえ汚い字でも手書きの手紙をもらえば嬉しいもの。“最近、字を書いてないな”という人は、とりあえず自分の名前を自信をもって書けるようにチャレンジしてはどうでしょう」(新保さん)
※女性セブン2017年9月28日号