9月13日、約10万人の年金受給者に、本来支払うべき年金およそ600億円が、「事務的なミス」によって払われていなかったことがわかった。未払い金額は年金制度が始まって以来、史上最大規模だ。
今回、未払いがわかったのは、聞き慣れない「振替加算」という“特別な年金”だった。「年金博士」として本誌・女性セブンでもお馴染みの社会保険労務士・北村庄吾氏が解説する。
「現役のサラリーマンならば、妻が専業主婦だったり、子供がいたりすると、会社から『扶養手当』を受け取ります。引退して急にそれがなくなると教育費など家計に困る人も出てくるので、扶養手当の代わりに、国から年金に上乗せして受け取れるのが『加給年金』や『振替加算』と呼ばれる特殊な年金なんです」
妻が65才になるまで受け取れるのが「加給年金」で、65才以降に受け取るのが「振替加算」だ。今回、支払われていなかったのは、月額約1200円~2万円弱の「振替加算」で、多い人では90才までの25年間ももらうことができなかったケースもある。1人当たりの未払い額は最大で590万円に上るという。
「厚労省の発表によれば、主なミスの原因は、公務員が加入する共済組合と年金機構の情報共有不足で、未払いとなっている“被害者”の9割は、元公務員の妻でした」(全国紙担当記者)
そこで新聞各紙はこぞって、《処理ミス、公務員妻ら対象》(日経)、《10万人支給漏れ 元公務員の配偶者ら》(朝日)と報じた。
そういわれると、「夫は公務員じゃないから大丈夫」と安心した主婦も多いはず。でも実際には、公務員の妻以外にも“未払い被害”が拡がっているのだ。1つ目の問題は、今回の「振替加算の未払い」以外に、支払いミスが多発していること。
「旧社会保険庁での年金記録のずさん管理が明らかになって、年金制度への信頼を取り戻すために新たに『日本年金機構』としてスタートしたのが2010年。しかし、今年7月までに未払いや事務的なミスを合計約2万5400件も起こしています。現在も月に100件のペースで発生していると報じられています」(北村氏)
ミスの多くは届け出の放置や入力ミスなどの怠慢によるものだった。ミス1件あたりの影響額は「100万円から500万円未満」が27%と最も多かったといい、“被害”はかなり深刻だ。しかも、まだ発覚していない未払いも多いはずだ。